今月1日の米中首脳会談は両国間の貿易戦争に関する暫定的な合意に達した。米国側は来年1月1日に予定されていた対中国制裁関税の引き上げを見送る一方、2月末までの90日間、中国による知的財産権の侵害や非関税障壁の設置などの問題を解消するための協議を中国側と進めることにした。協議が不調に終わった場合、米国は予定通りに制裁関税の引き上げを断行する方針。
つまり米国による制裁関税引き上げの見送りはあくまでも期限付きのもので、中国にさらなる譲歩を迫るための一時的な措置だ。
このような合意内容は、中国と習近平国家主席にとって屈辱以外の何ものでもない。「90日の猶予で譲歩せよ」とは、まさに「城下の盟(ちかい)(屈辱的な降伏の約束の意)」そのものではないのか。
屈辱だからこそ、中国政府の国内向けの正式発表と国内メディアの報道では、「90日間の猶予付き」という肝心な点が極力隠蔽(いんぺい)されているのだ。それが中国国民に知れ渡ると、習主席のメンツが丸潰れとなって中国政府の権威は地に落ちるに違いない。
それほどの屈辱でありながらも、中国側は前述の合意内容をのまざるを得ない。米国が発動した貿易戦争は中国をそこまで追い詰めているのだ。米国の制裁関税がさらに拡大していけば、既に落ち目の中国経済は総崩れとなってもおかしくはない。窮地に陥っているからこそ、習主席は恥を忍んで合意した。
このような窮地を招いたのも習主席自身だ。今年7月の貿易戦争開始当初、習政権は強気の姿勢で徹底抗戦を行い、米国の制裁関税に対して対等の報復関税で応酬した。
しかし、中国側の抗戦は逆に米国側の制裁関税の拡大を招き、9月には米国はとうとう2千億ドル分の中国製品に対する第3弾の制裁関税を発動した。
ここまで来て習主席は初めてトランプ政権の本気さに気がつき、米国の制裁関税が中国経済に与える打撃の大きさにも気づいた。習政権は一転して柔軟姿勢を示した。先日の米中首脳会談では大幅に譲歩することによって例の「90日猶予」をトランプ大統領から与えられ、首の皮一枚つながった。
一連の経緯からみれば、貿易戦争への習主席の対応は一貫した戦略性を欠いた場当たり的なものであることが分かるが、今後、習主席を待ち構えているのはさらに大きな試練である。
与えられた「90日猶予」の期間中、中国は米国側の要求に応じて知的財産権の侵害や非関税障壁の設置など、今までの悪行を目に見える形で改めなければならない。中国にとってそれはほとんど不可能に近い。両国間協議の難航は必至だが、協議が不調に終われば、中国が何よりも恐れている制裁関税の引き上げが避けられない。
一方、中国政府が国民に対して「90日猶予」を隠蔽していることも裏目に出るだろう。猶予期間が終わって米国の制裁関税が再び引き上げられた場合は、中国政府の嘘がバレてしまい、国民に説明しようがなく、習主席はより一層の窮地に陥るしかない。
こうしてみると、国民に対する隠蔽は、愚策そのものであるのだが、米国側に対しては、できもしない約束までして90日間の時間稼ぎをしておきながら、いつかバレるに違いない嘘をついて国民をだますのは、習主席による精いっぱいの対応策だろう。
急場しのぎの姑息(こそく)な策では貿易戦争を勝ち抜けるはずもない。そこから見えてきたのは習主席の戦略性と先見性の決定的な無さと、「大国指導者」としての資質の欠如だ。このような愚かな指導者の下で、本人の唱える「民族の偉大なる復興」とは、まさに夢のまた夢ではないのか。
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【プロフィル】石平(せき・へい) 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。


